「蒼い月」バージル篇

§4 その手に剣を取れ 音楽を流します


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「兄貴・・・お願いがあるんだけど」
「ぶはっ・・あ、兄貴? 
なんだよ、そう改まった呼びかたされると 
気味が悪いぜ。
四だの おっさんだの、
偉そうにいう奴がさ」

あの屈辱の日から数日がたっていた。
いつまでも いじけているわけにもいかない。
弟の世話もあるし、 
それに 四がいつも以上にふざけた態度をとってくれることに
かえって 気遣いを感じて 
それに応えたかった。

しかし、バージルには一つの決意があった。

強くなろう。腕も、こころも 強くなっていたい。

「剣を、教えてくれないか」

四は少し驚いたようだが、すぐに
「ばかたれ、あれは 16になってからだ」
「・・・・」
「もし、お前が 
里の人間に手ぇだすようなこと考えているんだったら、それは 掟やぶりになっちまう。
だめなんだ。
おれたちが相手にしなければいけないのは、どこかに潜んでいる悪の魔だ。
おれたち自身が 悪魔を封じる存在といってもいい。
人は弱く、悪に染まりやすい。それを喜ぶやつらがいる。
やつらの招くのは混沌の世界だ。
いずれおまえも仲間に先んじて戦うことになるだろう。
おれたちの身体に流れている剣士の血・・・おれはそれを誇りに思っている。
ただし、戦うばかりでは悪とかわらない。研ぎ澄まされた精神、他を慈しむ心、
それがなければ正義はみえてこない。
いまは魂をみがくときだ。
16をまつことはけっして無駄じゃない。
魂が剣を振らせるんだ。小手先の技術では及びもつかないものだ。
だから 焦るな。
今は知恵とその魂を育てることに専念しているんだ」
「でも、ボクは、いま、強くなりたい。
でなきゃ、
こころが、
くじけちゃいそうなんだ。
もっと 力が欲しい・・・
兄貴、助けて」

四は心の中で、
この年端もいかない少年が可哀相でならなかった。
いずれ、大きな運命を背負っていくべき兄弟の、
そのひとりが壊れそうになっている。

そう、バージルとダンテのふたりは 
この村では特別な存在だった。
ふたりはそれを知る由もないが、
全ての村の者は 彼らを守っているのだと 言ってもよかった

「軽い木刀をやろう。今晩からだ。
みんなにも、ダン坊にも、ナイショだよ」
バージルの顔にほっとした表情が浮かんだ。
「ありがとう! 四の字!」
「あははぁ、まいったね、現金なやつだ」

その日の晩から、バージルの剣の修行が始まった。
手ほどきする四の顔には、
少年がそれまでに見たことのない 
きびしさとりりしさがあった。




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