「蒼い月」バージル篇

§5 剣士の血 音楽を流します


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かかっても かかっても 
少年の剣ははらわれ、
からだごと 飛ばされてしまう。
四の剣さばきは 舞うように流麗で美しく、
また 狙った獲物を捉えて逃さない鷹のように 
的確だった。

「剣は頭で振るな。
心の、魂の声に耳を澄ませ。
お前の身体を流れる血の熱さを感じろ。」
「なんだよ、それ・・・んなもん、きこえねえよっ、感じねえよ!」
息を切らして 少年はただ がむしゃらに 立ち向かい続けた。

四の剣が少年の鼻先をかすめようとしたそのとき
彼のこころに響くものがあった。
「跳べ!」



四は瞬間 少年を見失った。
つぎに少年が現れたとき
彼の剣が左から右へ 紫色の光跡をともなって 振り抜かれた。

四の剣は 払い上げられ 
主を失って くるくると中を舞い、
落ちてカランと乾いた音をたててころがった。

四は一瞬眉根をよせて、
真剣な驚きと感動の表情をみせたが、
すぐにそれを覆い隠し、
少年に軽口をたたいた。
「だはぁ、まいった、・・・って、 
手加減してやったんだからな、
今回限りだ。おぼえとけっ。

おっしゃ、
本日の講習はこれでおわりだ。 
早く帰れ。 
んで 指くわえて寝ちまいな。」
「あしたも つきあってくれる?」
「しょうがねえな、大人の夜はいそがしんだぜ、いろいろと。
まいいや。 
毎晩、すこしづつ、だ。 
あせるな。 じゃな」

少年と別れた四は 
まさに目覚めかけている少年の姿を思い返し
運命のときのおとずれが、
おもっていたよりも 早くなるような予感をおぼえて
身をひきしめた。
四にもその「運命」がなんなのか、
はっきりと分かっているわけではない。

ただひとつ、 
運命の先に 自分達の最期と、
兄弟の新たな旅立ちがまっていることを 
彼は知っていた。





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