「蒼い月」双子篇

§10 取り戻すものは「未来」




深い森に かすかに 聞こえる
こどもの笑い声は
木霊がふざけているようにも
風がささやくようにも
きこえる。

ふたりは 繭玉のなかで
時を遡り
本来の姿を 取り戻していた。
同じときに生まれ
同じときをすごしていく はずだった、
その流れを 取り戻していた。



これは 夢。
実際にはひずんでしまった
ふたりの 時。

別のときを過ごしたことで
味わった辛さもあれば、
幸せもあったのだ、と
思い返す。

いま すでに ふたりの時は 同調を始めているのだ。
「ダンテ・・・・まだ 終われないよ、これからだよ」
「・・・・バ・・・ル」
「取り戻すのは 過去じゃなくて、未来。
俺たち まだ 17になったばっかだぜ。
ほら、そんな傷、 舐めたら治るって・・・」
「バージル」
「起きて。 俺を ひとりにしないで」
「・・・泣いてんの?・・・にあわねぇ・・」
「そんな 憎まれ口 叩いてる暇あったら、
さっさと 起きやがれ。」
「さっき、 目つぶってたら、 母さんの歌が聞こえた・・」
「おぼえてるの?」
「少し。」
「傷が回復してきた・・・・父さんの力?」
「うん・・・
ぼく、もうこのまま 死んじゃってもいいって、
思いかけてたよ」
「俺は、・・・このまま 負けたくない。
「うん・・・ 負けられない」

怒りと焦りで 狂い始めた無道がみたのは

光の繭玉から浮かび上がった
二つのシルエットだった








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