「蒼い月」双子篇

§13 いるべき場所 音楽を流します




「・・・・・」
ダンテはまるで 
どう 息をすればいいのか忘れてしまったようだ。
「・・・や、やだ・・いかないで」
「いまの おまえなら わかってくれるって・・」
「わかりたくない。」
「弐伊がいってた。
四兄ぃは待ってる、って。
追いかければ、 見つかるって。」
「じゃあ、一緒に行くよ。
じゃま、しないから。」
「だけど・・むこうがどんな世界かわかんないし・・」

「そぉだっ! だから来ンなっ!」



いきなり 第三の声が闇から聞こえてくる。

「四!」
「やれやれ・・・目が覚めちまった。
いい夢みてたんだけどな。」
「どこっ?どこにいるの?
姿が・・・見えない」
「いま俺は 魂の声でおまえ達に語りかけている。」
「・・・死んじゃったの?」
「ヒトを幽霊みたいにいうな。
からだはいま ここから脱出するのに必死だ。

ここは バランスを失った、修羅と欲望の世界だ。
戦いの世界だ。
果てしない憎しみの連鎖に
未来は 見えてこない。

でも

おまえ達が俺に もう一度 未来の可能性をくれた。
脱出して見せるさ。
そして バージル、もう一度 向こうで、
明るいところで、会おう。

嬉しいよ。
おまえの想いが
俺自身で ここから出る気にさせてくれた・・・

だから、魔界へ行く、なんて いうな。
もう 弟を悲しませるな。
おまえ自身 どれだけ 弟に救われてきたか、
わかるよな」
「・・・・・・」
「にいちゃん・・」
「ネロ君はどうしたの?」
「兄貴は・・・もう目覚めることを拒否している。
辛いときを あまりにも長く過ごしすぎた。
もう二度と
悪夢にうなされることのない 安寧の世界へ
いったんだ・・・」

ダンテがおずおずとくちを開いた

「よ・・・四兄ぃ・・・」
「弐伊? 帰ったらわかるよ。」
ダンテはまっかになって うつむいた。

「ぼくらは これからどうすればいいの?」
「おまえ達がいるべきところへ 帰るのさ。
大丈夫。そのまましてな。
だれが連れて帰ってくれると思う?
俺じゃないよ。
親父さんと おふくろさんが 導いてくれるんだ」

「ありがとう・・・・・ バージル、ダンテ・・・・・・」

声が消えた。

ふと ふたりは ぬるく まったりとした液体に浸されたように感じた。
急激に眠くなってくる。
細胞のひとつひとつの時間が逆流をはじめ
縮んでいくような感触。
甘い砂糖水に 心地よく溶かされる。
目は閉じているはずだが
きらきらと光るものが見える。

あたたかい・・・
・・・あたたかいな・・・

***

「ダンテぇ、おめえ プロムの服借りた?」
小太りのちびが目の前に座っている

(俺は、こいつを 知ってるんだ・・・・)

みまわすと カウンターの席にバージルがいる。
女の子にはさまれて なんだか もめている。

ふたりの新しい時間が流れ始めていた。











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