「蒼い月」双子篇

§4 Beginning〜託された希望 音楽を流します



「にいちゃん・・
僕では四兄ぃの代わりにはなれないかもしれない。
じゃま・・・なのかもしれない。
けど、僕には 兄ちゃんが必要なんだ」
「・・・・代わりはいらない。
おまえは おまえだ。
俺の、大切な・・

ごめん、ちょっと 俺、自分のことばっかり考えてた。
小さいときから、いつもそばにいた。
いっつも にこにこしてた。
けど、母さんが恋しいときもあったろうし
ひとりでさみしい思いをしたときもあったろう。
でも 俺にはいつも 笑顔で
その笑顔に 俺は
そう、支えられていたんだ。

ダンテ。
俺にも、お前が 必要だ」

まるで それが合言葉であったかのように

里のほうから ゴゴゴッと震動がきた。
天も地も震えている。
空が真っ赤に染まる。
天から現れたのか それとも地からなのか
光の柱が立つ。
空は渦を巻き 今にも裂けそうだ。

「弐伊!!」
ダンテが叫んだ
「来たな!」
「弐伊、俺達の力で本当に対抗できるんだろうか」
大きな渦を目の当たりにして、バージルは弐伊に訊ねた。
「自分達に共通に流れる血と 強い魂を信じろ。
君らの内側の魔の強さが おのずと結果を出してくれる。
強さだけではないんだ。
ニンゲン的な信念とか信頼、周りの者たちへの想いが
その強さを引き立ててくれるはずだ。

俺のような純粋な魔族では 無理だ。
すまん。 俺も可能なことはするつもりだ。
しかし 最後は 君たちが 希望だ。」




「わかった。
よし。 いくぞ、ダンテ!」

「うん!・・・・・・バージル」

三人は 風のように 山を駆け下りていった。

****

里はすでに ヒトの世界ではなかった。
濁った空気と異臭。
ヒトの欲望はどんなちいさなものも肥大し、魔と化してしまう。
ささやかな希望さえ 餌食になる。
老人からこどもにいたるまで、次々と魔物に変えられていった。
ほんの数分前までヒトであった者たち。
3人は 怒りと哀しみを剣に込め、それらを薙ぎ払いながら駆ける。

「どこをめざせばいいんだ!どこに 奴は 現れる!」
バージルが怒鳴った。
「・・・・たぶん、あそこだ。」
あの 稲荷堂だ」
「稲荷堂?」

これだけの振動と爆裂音がしながら、
稲荷堂はその形を成している。
それはまるでちいさなピラミッドのようであり、その錐(すい)の先端に
目もくらむような光が集っている。。

「この場所は、あの店のあった場所・・」
「うん、でもあの店のことを記憶しているものはいない。
なかったことになっているんだ。」

弐伊が先立って 稲荷堂に近づいたが、稲妻に打たれるように弾かれてしまった。
「くそ・・・近寄れない・・」

そのときバージルはつぶやいた。
「・・・・呼んでいる。
奴が、 俺達を 呼んでいる。 くるがいいと。」

「まさか・・、君達は ゲートを開く鍵になっているのか・・」
弐伊が言った。
「いや、預言の通り、 封印するのさ。
内側から・・・」
「そうだ。無道は 僕らを呼び込んで
内側で虜にし、糧とした上で
表に出てこようとしているみたいだ。」

「バージル、ダンテ・・・
くそ、俺は 自分の非力を恨むぜ。」

そういっているうちに
稲荷堂の周りには 彼らを狙う魔物が群れてきた。
「よし、俺はここにいて ザコを片付けよう」

黒山の群れだ。
「弐伊! 一緒に中へ!」
ダンテが叫ぶが
「俺は行けない。
だがここにいて お前達の邪魔になるものを封じておくことはできる。
せめてそれくらいは カッコつけさせろ。
大丈夫。数は問題じゃないさ。」
そして
「もってけ。今から 俺には不要だ」




あの白い銃を投げてよこした。
「ダンテ・・・。次に会ったとき、またおまえの側にいられることを願う。
頼むぜ!」

「弐伊!」

弐伊は黒い魔人に姿を変え
群れの間に入っていった。

バージルが声を掛けた。
「いいか?」
「ああ、 ・・・行こう バージル。
入り口はここだ!」

暗い口が開く。
ふたりは 一歩ずつ降りていく
それはまるで 悪魔のはらわたに飲まれるようだった。








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