「蒼い月」双子篇

§3 送られ続けた波動 音楽を流します






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ふたりを前にして
弐伊はどこから どう話すかしばらく考えていたが、

「では まず 魔族と ニンゲン、そして神の関係からだ。」

「これは俺が伝え聞いた範囲の話だ。
世界のどこかに
正式な伝承者の種族がいる。
いつの日か、彼らに出会い、おまえ達が正統な継承者として
話を聞くまでの おおまかなものだと思ってほしい。

神と魔族はもともと同じ世界にあった。
神は自然が具体的な形を成したもの、
魔族はよりニンゲンに近くいて感情・感性を司る。
ニンゲンは弱い。流される。
内なる陰に流され悪の魔と化しやすい。
魔族はニンゲンに混じってその暴走をくいとめ、コントロールする。
ただ、陰を悪とするのはまちがいだ。
哀しみがあるから 喜びは生まれる。
欲があるから 繁栄を生み出す。
陰、濃ければ光はより眩い。
陽の部分は陰の部分を癒やし、あらたな 光を生みだす。
異なるふたつのものは 対立し、やがて融和し、さらなる高みに上る。
互に必要なものなんだ。

しかし 陰の部分が陰そのものを喜びとし
それを貪り続けて ひとつの形を成してしまった。
ニンゲン界と神・魔界の間に巣くう、
それが 冥王、無道だ。」
「・・・・・」
「冥王は 自らのうちから 純粋な悪による
醜悪な魔族を生み出していった。おれ達とは別の流れだ。
やつらは ニンゲンの弱さつけこんだ。
ニンゲンが己の内からうみだす暴走した陰の部分、
それがやつらの餌になる。
餌を得るために 冥王はニンゲンに囁き
欲を増大させ新たな悪を煽る。
隙間の世界、それは曖昧・混沌の世界だ。
すべてのものは形を失い、無と化す。
残念ながらやつの出現は繰り返される。
なぜなら人間の欲望、いや人間だけじゃない、魔族・神族の傲慢は
尽きることがないからだ。
約二千年の周期をもって無道は強大な力をもって現れる」
「二千年前にやつを一度封じた者がいるということ?」
バージルが尋ねた。
「そうだ。俺たちの間では英雄として伝えられている魔族のものだ。
彼の側には目覚めたニンゲンがいた。ニンゲンの信頼する心、慈しむ心は素晴らしい。
共に戦うことでより大きな力となり冥王を封じた
ふたつの異なるものの存在がここにもある。
そして預言がうまれる。
二千年後、彼らの血をうけつぐ者、
光と闇を象徴する双子が再びその役割を果たすと。
それが、きみたちだ」
「ぼ・・僕たちがその血族・・子孫だってこと?」
ダンテは目を丸くする。
「預言!」
バージルはせせら笑った。
「なんだよそれ! そんな曖昧な 不確かなものに
振り回されているのか!」
「しかし 実際 無道は君の前に現れた」
「ああ、取り込まれそうになったよ。」
「奴は知ってるからなんだ。
君たちが最大の邪魔になることを。
同時に、仮に取り込むことができれば自分を強大化できることも知っていた」
「そうだろう。 もともと双子であるべきだった俺達の時間をずらすなんて 
すごい技、見せてくれたもんな。
まずは 俺か。
わかんねえだろ。
どんだけ あいつが下賎なやりかたで俺を取り込もうとしたか。」

「知ってる・・・・
これが・・・教えてくれた。」
ダンテは懐の袋から 稲荷堂で見つけた帯の切れ端を出した。

「これは?」
「ある 隠し部屋でみつけた。
これを手に取ったとき、にいちゃんを見た。」
「・・・・・笑えよ。軽蔑しろよ」
「ごめんよ、にいちゃん、僕がちいさかったばっかりに・・
あんな、ひどい目に」
「お前に謝られる必要はないね。
それに、・・・・ もう どうでもよくなって
しまいには もっと やってくれって 気分だったよ!」
「うそだ!」
「うそじゃないさ・・・」
「うそだよ。 もう自分を傷つけないで。」

「おまえ どうして それを持ったままでいるの」
「僕の中の逃げたい気持ちとか、甘えた気持ちを
この帯が叩きなおしてくれる。
怒りを忘れないように。
いつか 怒りや 憎しみを忘れてもいい日が来るまで。」

「俺だけじゃないな。
父さんや、母さんや、村の人・・ネロ君・・・・」

「四兄ぃもね」

「あいつは 待ってるよ」
弐伊がいった。

「あいつには 時間を停めるという特殊な能力がある。
絶妙のタイミングをもって、ゆがんだ運命の時を修正する役割を請け負った。
彼の兄貴はそれをサポートした。
だけど、あいつの本来の使命はそこにあるんじゃない。
きみとともにあって、きみを護りつづけること。
君の七年の眠りが他の誰からも気づかれず、しっかり守られてきたのは
彼がどこからか 強い波動を送っていたからだ。
彼自身は眠ったままだろうが
強い魂がその波動を眠らさずにいるんだろうな。

俺には分かる。あいつのその強さが使命感だけによるものではないと。
強く、そして深く伝えるのは、使命じゃなく、きっと・・・愛だと思う。

俺たちのほんとうの故郷、神にも入ることのできない魔界のどこかだ。
波動の残滓を追えば わかる。
いつかまた 君に目覚めさせてもらうのを待っているよ。」


やっと持ちこたえていた水が ついにあふれたように
バージルは唇を震わせ
大粒の涙をこぼした。






バージル涙の瞬間のショートストーリーとフラッシュ「落花」
** オルゴール音楽が流れます


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