境界線 <Chapter One>
¶第一章 真実の在処
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*共鳴するアミュレット〜凍てつく空へ***



同じ頃。
バージルは部屋でひとり 一心に古い書物に向きあっていた。
大学の図書室の奥で見つけた、一冊の本。

数え切れない書物のなかで
まるで それが浮き上がり、語りかけてくるように感じた。

目眩をおぼえた。

「我を求めよ」

声とも 空気の響きともつかないが

そう 訴えてきたように感じた。

しかし

書物をひらいても、彼には読むことが出来ない。
ただ 皮の装丁に浮き彫りにされた紋様に惹きつけられた。

そのとき、ふと 胸元に熱を感じて手を当てた。

熱・・・というより、震えだったかもしれない。
痺れるような感じだ。

「なに?」

手にふれたのはダンテと分け合ったアミュレットだった。

ダンテが旅立って、
まだ 10日ほどしかたっていない。

「しずかでいい」と、四にも言った。
しかし 静かすぎることの寂しさは、彼が覚えずとも 澱のように 積もる。

胸に伝わったものはアイツの叫びなのか
闇の囁きなのか
それとも、己のつまらない動揺なのか

しかし、確かにアミュレットは共鳴しているのではないかと思った。



シャワーを少し熱めにし、湯に うちつけられるままにしていた。

鏡に映る自分にダンテを重ね
「いま どうしてる?」
と 訊ねる。

まだ 始まったばかりだというのに感傷的になっている自分を、小さく笑った。

「なにか あったら 行くから」

彼は鏡に手を当て
ざっと ぬぐった。

***

その夜

ダンテは夢を見ていた。

飛んでいる。
あれは ・・・ 翼だ。
俺の・・・翼だ。
・・・・・の、 翼だ・・・
忌まわしい・・・

いや・・それに 偽りはなく 
純粋な本能を顕した 究極。

高揚する。
血が粟立つ。

俺は なんのために この地へきた?
伝説と称えられるためか。
それとも 嫌悪の目にさらされるためか・・

嫌悪?
いやだ・・・ひとりぼっちはいやだ

このざわついた気持ちが
凍りつく 空の彼方まで

翼よ
俺を運べ・・・





***


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