境界線 <Chapter One>
¶第一章 真実の在処
  (BGM ON)

*MAJIN〜贖罪の対価***

***

橋を制圧したのは独立派だった。
少数派でありながら 
どこからそんなに資金提供をうけたのかとふしぎなほど 潤沢な装備をしており
世界の『警察』を自称する同郷の軍隊を押していた。

広場で双方が対峙している。

そこで ダンテは驚愕する・・・

人々の目は落ち込み、そこにあるのは 暗い虚ろ・・

「まるで 髑髏じゃないか・・・」

みれば 恐怖にひきつる 同郷の若い兵士たちも
じきに 人の顔を失っていく。

ダンテは独立軍の後方で指揮をとっている テオを見つけた。
テオは 人の顔こそしていたが、冷たく、まるで 機械人形のようだった。

「テオ! 気付いているのか!
みんな・・・みんな・・・魔にとりこまれていく」
「なにをいっている・・
君こそ 魔そのものなんじゃないか?
見たぜ・・・全て死すべきところに 立ったお前を・・・

魔物よ、みるがいい。 正義というものをな!
いまから 向こうの野犬どもを、天誅の炎で やきつくしてくれるわ」

広場には累々と死骸がころがっている。
しかし、こんな場面にはまるで約束されたように いるのだ。
死骸にとりすがり
泣く こどもが・・・

ダンテは反射的に駆け寄りその子を 抱き上げる。
しかし彼らの存在はあってないようなものだ。
生き物のように 四方八方から炎が襲い掛かってくる。





次の瞬間
上空から放たれた白い閃光が、すさまじい 風を伴い
両軍のへだてなく すべてをなぎ払っていった。

すべては 塵のように 粉砕され
すべての 音さえも 消えた。

ただ 瓦礫の中に テオだけが、恐怖の表情で 立ちすくんでいた・・・

上空には 羽をひろげた黒い魔人の姿があった。

右手に大剣を
左腕に こどもを抱えていた





***

その時ダンテは 怒りに震えていたのか?
そうではなかった・・・
自分の剣の一振りが
いま眼下のあらゆるものを 制圧した。

わきあがってくる 力
その高揚感に ぞくぞくしていた・・・

悦びと いえるほどに。

不意に こどもが火をつけたように泣き出した。
恐怖でつまっていた息が一気に吐き出され、悲鳴のような 泣き声だった。
そして異形の腕からのがれようと 必死にもがいている。

地上で ヒトの姿に戻ったダンテは
あたりにただひとりのニンゲン、テオに こどもを預けた。

こどもは よほど ほっとしたのか
あるいは そこに静寂をもどすために何かの力が働いたのか
気を失った。

いたたまれない静寂を破ろうと、ダンテとテオは同時に口を開こうとした。
テオは ダンテを制するように言葉を続けた。

「お前のせいじゃない。
お前のせいだと

おもっちゃいない・・・

いずれ 俺たちはこうして 自滅していく運命だったのだろう。

俺たちは 愚かだったのか・・・
神の怒りを見たような気がした・・・」

そう語るテオは 鞭打たれ 苦しむ 人間の顔をしていた。

「俺は・・・神じゃない・・・」

どのように返せばよいのかわからず、縮こまるような思いで ダンテは言った。

「当たり前だ!きさまが 神であるわけがない!
俺は・・・俺は 悪魔には屈しない!」
「俺は!
俺は 侵食する魔が許せなかった!

ニンゲンが・・・
魔と化していく・・・

そして 俺は 半魔だ。
あらゆる罪咎を体現する魔が自らのうちにある・・・
だけど 魔はそれを律することもできる!
悪魔とは それができずに ただ七欲におぼれたもの・・」
「やりばのない 怒りを
狂ったニンゲンにむけたのか」
「テオは やっぱり 俺を責めるのか?」
「いや・・・・
俺は・・ともすれば お前に救われたんじゃないか、
お前は救世主だったのかと思いそうになる、それを 拒絶する。
お前に救われたと思う自分を拒絶する・・・
俺も、自分がわからない。

ダンテ、俺はどうして 生き残ってる?
俺は 魅入られていたのか?
俺こそが 魔と化していたのか?」
「それは・・・きっと テオに大きな役割が課せられているからだろう。
ここに 人間の世界を再生させるという」
「それは 赦されたからなのか、
それとも おおきな咎を 背負わされたのか」
「どっちだろうな・・・。
お・・俺も 力になれることがあれば・・・」
「いや・・・
すまない。
俺は思う。
この地は 人間だけで 再生したい。
お前は

黙って

ここを去ってくれ」
「っ・・・・・
わ・・・わかった。
必要なものだけ荷造りしたら・・・行くよ。

いろいろと 世話になった。
ありがとうな・・・
これから みんな よくなることを・・・」
「行ってくれ!」





***


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