君の胸に竜は眠る

(♪H-Mix 小さな案内人)


§ 13歳

***
晩秋。

「ううっ、今朝は冷えるな・・・
おい、ダンテ、起きろ。
怜ちゃんが来る前に 少し稽古しておこう」
「・・・やだ」
「何言ってやがる。
猫じゃないんだから、丸まってないで、ほら、起きた起きた!」

弐伊はダンテの布団をひきはがしにかかったが
ダンテは頭まで布団をかぶったまま それを死守しようと
手と足で抵抗した。

「やあだっ、あとでいくから 弐伊、先に行っててよ。
・・・すぐ いくからっ」
「なんだなんだ、しょんべんでももらしたか?」
「ちがうよっ。ほっとけよ。ほんと すぐ行くからっ」

三月ほどまえ、ダンテは13を迎えた。
そのころからからだがぐんぐん大きくなりだし、
こどもらしいふっくりした感じがぬけてきた。

弐伊はぴんとくるものがあって、それ以上無理にダンテを起こすのをやめた。
「オーケーオーケー、わかりましたっ。
俺は今夜から少し出かける。だから朝の稽古だけはしておこう」
「・・・・・・いつ帰ってくるの」
「そうだな、こんどの川辺の花火大会の時には戻ってこられる」



この町では 領主の世継ぎの誕生の日を祝うため
領主の一存で季節はずれの花火大会が催される。

「一週間も・・・?」
「ああ、帰ったら花火、一緒に見に行くか」
「・・・うん」
「じゃ、さきに稽古場に行っている。
あ、それから、それ、気にするな。
べつに病気でも失敗でもないから。
むしろ 喜べ! 男の・・・男の・・・」
「・・・?」
弐伊はいい例えが浮かばずちょっぴり考える。
「男の・・・打ち上げ花火みたいなもんだっ」
「・・・なんだよ、それ」
布団の中でダンテが笑っているのがわかる。
「ささっと洗っとけよ。シミになるぞお」

弐伊がでかけたのを見計らって
ダンテは布団から顔を出し、大きくため息をついた。
「弐伊は冗談がへたくそだな・・・

・・・弐伊・・にい・・・
・・・・
やべ・・・」

ダンテの内側にあらたな炎が灯る。
そくっとする 震え、疼くようなしびれが 交互にからだを巡る。
ダンテはまた 布団にもぐりこむはめになってしまった。

***

「おまえぇ・・遅いぞ。またあの後で一発抜いたりしてないだろうな」
「うるせ、スケベじじぃ」
石段に腰をおろしたまま声をかけてきた弐伊を
ダンテはまっすぐにみることができないまま ふてくされたように答えた。
「俺をおとうさんだとおもって・・・いや それはいやだな。
おにいさんだとおもって、なんでも相談しなさい、ダンテ君。うははは」
「やだよ、弐伊はおとうさんでもおにいさんでもないやい!
・・・・同志だ。うん、同志」
「同志・・か。それもいいだろ。さ、稽古はじめるぞ。今日は体術だ」

***

ダンテが運び屋の仕事から帰ってきたときには
すでに弐伊は出かけた後だった。
書置きがあった。

「一週間、気をつけて過ごせ。
なにかおかしなことがあったら、心で念じて俺を呼べ。
世界のどこにいても なにをおいても
俺は帰ってくるから。

今朝の事は気にするな。
一度は男が通る道、だ。
ヤりすぎるなよ。ばかになっちまうぞ。

じゃあな    弐」

「ば・・・ばか!? なんだよそんなら弐伊はもうオオバカじゃん!」







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