君の胸に竜は眠る

(♪あおいとりのうた : 約束)


§3  闇の一条
***

遠くで花火の音がする。
それをダンテは ぼんやり聞いていた。
縁の柱に7つの傷。 
たった七日なのにひと月も経ったような気がする。
弐伊は まだ帰ってこなかった。

***

そのころ山の光の扉を抜け戻ってきた弐伊は
赤の正装を解き
泉で肩口の傷を洗っていた。
最後の魔が消滅する間際に放った一太刀が肩をえぐった。
そのとき はるか 里の方角から花火の音が聞えた。
「しまった・・・」
傷を癒すのもほどほどに
弐伊は黒い翼を拡げ、初冬の空に飛んだ。

***





「わりい!ダンテ 遅くなったな」
ばたばたと帰ってきた弐伊は
ダンテが黙ってふりむくのを見た。
鼻のあたまが赤い。
どう、笑ってごまかせるか 考えた下手な冗談がふっとんだ。
(愛おしい)
弐伊は さっと ダンテを脇にかかえると
「つかまってろよ」と一言
縁から屋根へ跳び上がり そのまま跳躍を重ねた。


「弐伊、弐伊、どこ行くの」
「社のカヤの樹の上で花火見物だ」
「弐伊、あそこ、花火が下に見える!」
「ほんとだ・・・・・ダンテ、遅れてすまなかったな」
「いいよ。 こんなに最高の花火見物、してる!
ほら 上にも・・・」



みあげると 星が消えない花火のように 広がっていた。




 前のページ  次のページ  君の胸に竜は眠る TOP  小説館トップ   総合トップ