(♪: DEAR あおいとりのうた) |
§ 11歳A
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志乃というのは若くして出会い茶屋を仕切る”おかみ”だ。
男性でありながら女物で飾り、どこからどうみても女性にしかみえなかった。
その色香ときたら 並みの女性ではおぼつかぬ程で
一度、魔物に襲われている所を弐伊が救ったことからちょくちょく湯屋として利用するようになっていた。
里の人々とは体の色が少々異なるため、
弐伊やダンテにとっては長屋の共同風呂を使うよりも好都合だった。
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「髪、そろそろ染めなおさなきゃな」
ダンテの髪を洗いながら、そこに銀色が目立ってきたのを見て弐伊がいった。
「俺、もうすぐ12だから自分でやる。ネロ君も自分で染めてた。
俺もできる」
「ネロはもうおとなだったろ」
「けど、見た感じ12か13歳くらいだったもん。
・・・弐伊、ネロ君知ってる?」
「あ、ああ、友達だった」
「大好きだった?」
「・・ああ、好きだったよ」
「俺より?」
「なに、キライっていったほうがよかったか?」
「そうじゃないけどぉ。
にいちゃんもネロ君と剣の稽古してるときは楽しそうだったし
なんか おもしろくねぇ・・・
ねえ、弐伊も四兄ぃも大人なのに、どうしてネロ君だけ こどもみたいなんだろ」
「悪い・・・魔法かな」
「助けられなかったの?」
助けたかった、その言葉が出せないで、弐伊は口ごもった。
ネロは自分の間近にいたのだ。
それなのに まるで気付かなかった。
ぽっかりと、そこだけ、抜け落ちたように・・・
会話が途切れてしまってようやく ダンテはその日一日 弐伊を困らせていたと思いなおした。
弐伊の目がよそを向いていると感じると、やたら イライラする。
弐伊はダンテにとってはじめて、そしてただひとり わがままを言える相手だった。
大好きな弐伊・・・
大好きなのに、哀しそうな顔をさせた。
大好きだから、笑って、弐伊・・
「弐伊、背中流してあげる!」
「弐伊、気持ちいい?」
「ああ、いいよ。もっとごしごしいってくれ」
弐伊は背中の手がとまり やわらかい頬がよせられるのを感じた。
「弐伊、ごめんね。もう ネロ君の話はしない・・・」
返事のかわりに 弐伊の肩がピクリと動いた。
押さえようとしていた小さな嫉妬の炎が再びポッとあがる。
それはあの赤い石にみた青い閃光のようで、現れては消える。
しかし、そのもとは確実にダンテの内側に存在していた。
弐伊とネロの間になにがあったのか、わからない。
問いたいけれど、問うてはいけない なにか。
幼い心が自らに嘘をつく。
もやもやした感情に蓋をして、そんなものはなかったことにするために
こどもは ことさらにふざけてみせる。
ダンテは弐伊の首に腕を回し、後からのしかかった。
「でっけぇなぁ、弐伊の背中は!」
そのまま 弐伊の肩越しに覗き込むような格好をしていたが
「なぁ、弐伊、股、おもくねぇ?」
「はぁ?」
「重くね?それ」
「みるな、ばかもの」
「あ、照れてる」
「おまえもじきにこうなる!」
「やだぁ、そんな怖いの」
「怖い?」
そういうと弐伊はこらえきれないといったように大笑いしだした。
ダンテはうれしくなった。うれしくなって、弐伊にしがみついたまま
ぴょんぴょん跳ねた。