3 | 渇く喉 | ![]() |
♪夏色:光闇世界(モノクロ) |
***
ひとり戻ってきた弐伊は、出迎えた仲間たちの緊迫した表情を見て
帰途、すがりついていた希望が打ち消されたのを悟った。
***
「つねにチームとしてふたりで行動していろ」
年長の仲間が警戒していたその日の敵は
弐伊とネロのふたりには 物足りないと感じられた。
腕も立つ。
女にも不自由しない。
怖れるものは なにも なかった。
戦火が鎮まったばかりの町。
場にそぐわないほど 美しい双子の女の誘い。
その妖しさゆえか ネロが一瞬躊躇する様子を見せたことで
弐伊は面白半分に けしかける。
「なに ビビってんだ、てめぇのじゃ手におえない、ってか」
「うるせえな、リーダーが仕事が終わったらさっさと帰って来いって言ってたの
ちょっと 思い出しただけだ。
じゃあな、おまえこそ その彼女をがっかりさすなよなっ」
そういうと ネロは先に一人の女の手を引いていった。
「ふん、余計な世話だ・・・さて 俺らもいきますか、お嬢さん」
弐伊はもう一人の女の肩に腕を回した。
しかし ――
待ち合わせの場所にネロが来ない。
思念の輪を広げて ネロの居所を探ってみると かすかに彼を感じたが
靄の向こうにでもいるかのように 場所が確定しない。
それどころかその彼の気はぶつりと 断ち切れた。
「おい・・・笑えねえ冗談だぜ・・」
戦火を免れた建物はもちろん、廃墟の陰、橋のたもと、
めぼしい場所を走り回った。
瓦礫の下。おそらくそこは異端とされた教会の跡。
無残に切り落とされた右腕があった。
「―― 」
弐伊は言葉を失った。
見間違うはずがない。
張り付いている布地は血を吸い込み黒々としているが
明らかに自分達の装束のそれだ。
そして その細く長い指はまぎれもなく ――
弐伊は震える手でその指にふれた。
ぎょっとするほどの 冷たさ・・・それを感じた途端、
腕は霧のように消えた。
記(しる)しだった。彼はここにあったのだ。
あるいは略奪者の宣言だったのか・・
「夢だ・・夢だ。なにも確かなものはないんだ・・」
そう思わないと、狂ってしまいそうだった。
弐伊はもう一度思念を広げてみた。
しかしなにも 感じられなかった。
「ま・・まだ修行不足ってことですか」
思念をひろげるといっても、まだ若い彼らには限界が低く
それを無理やり言い訳にして、弐伊は自嘲した。
「帰ったんだ・・・そうだ、野郎、先に帰ったんだよ。
・・・きっと、帰っている・・」
***
弐伊は荒れた。
おとな数人に抑えられている弐伊の姿を
当の身内である四は なにか 遠い芝居を見ているような気がしていた。
そしてその悲劇の筋書きよりも、慟哭する役者に 四は惹かれた。