卒業
§プロローグ2
幕間の夜  (♪バッハ G線上のアリア) 

その時、G線上のアリアが聴こえた>


歓声とともに 角帽が投げ上げられる。
お決まりのイベントで
卒業のセレモニーは しめくくられた。

会場となった公園のはずれ
ひときわ 大きな楡の木の下で
四と 弐伊がまっている・・・

今夜はパーティなんだ。
それから・・

俺と ダンテは駆ける。
むこうで 二人が手を振っている。

その距離の間に

バラバラっと 十数人の団体が割り込んでくる。
俺たちは立ち止まった。

ひとりが
地面に三脚架をしつらえる。
黙ったまま。
カチャッカチャッと 金属音だけが聞こえる。

そこに据えられた
黒い塊・・・

機関銃?

「なにしてるんだ?」
ことばにしようとするが
息が詰まって
でてこない。

機関銃を操作するそのひとりが叫ぶ

「神に代わって汝等に御業をくだす。
滅せよ!忌まわしき悪魔ども!」

それを合図に他のメンバーが銃を構える

「まって・・」

機関銃はゆっくりと
回転を始めた。

四の頸から鮮血が散る
弐伊の背が吹っ飛ぶ。

弾は二人をつらぬくたびに
体を跳ね上げ 粉砕していく。



崩れ落ちた ふたりに

銃弾はさらに撃ち込まれる。

そのとき 蒼い閃光が走り
波動となっていっきに狂信者達を吹き飛ばした

あれはなんだ!
なんだよ・・・

6枚羽の青と黒の魔人が降り立っていた・・・

「誰っ!!」
俺は目が覚めた。

「夢か・・・」
身体中が汗でびっしょりになっている。
シャワーを浴びる。
その熱さが 逆に俺を鎮めていく。

暗がりの中、眠るダンテが見える・・・
さっきのは 夢だと 確認する。

寝てるの?
俺は 
ヤツのベッドに歩み寄る・・・

***

「ダンテ、一緒に寝よ」
「なんだよ、こわい夢でも見たのか、あまえんぼう」
「いいから もうちょっとそっちに よれよ」
「どうしたの?」

「おまえ 出発はいつ?」
「3日後・・・昨日も聞いてたぜ」
「1年?」
「うん・・・それも毎日聞いてる・・」
そしてダンテはバージルにからだを向け
続けた。

「ほんとは短すぎるかも」
「俺には長すぎる」
「兄貴は・・四兄ぃがいるじゃないか」
「それとこれは ちがうんだよ。
からだの半分を
失ってしまうような
・・・すこし 怖い」
「俺は、 兄貴も 弐伊も 四も
世界をも破壊してしまうかもしれない
自分自身が怖い。
その可能性があることを知ってしまった・・・

いつ 闇の俺が牙を剥くか わからない・・・」

「それは 俺も・・」
同じかもしれないと言おうとして
バージルはやめた。

テュルキスタの最後の朝にみた
自分の半身との出会いを
彼はまだ誰にも言っていない。

「ポータルっていっても
世界中にあるのに、どうするんだよ」
「いろいろ考えたんだけど、
今回はヨーロッパを東から西へ
辿ってみようかって、思ってる。」
「べつにバイクじゃなくても・・」
「空気に・・・
・・・
大気にからだを晒すんだ。
大地から その鼓動を感じるんだ。

そのあいだ 語り合うのは自分自身のみ
俺には その時間が必要だ

かっこつけてるように聞こえるかもしれないけど、
バイクに乗ると そんな感じがするんだよ。

できるだけキャンプを張って
つないで行こうと思ってる。」

「わかんね・・・そんなことしなくたって
ここにいたって
自分をみつめることできるだろ・・
だいいち 弐伊だって ・・・」

「・・わからずや。

また、
また 大事な人を壊してしまったら、俺・・・」

そこでダンテは絶句して
顔を被い 堪えるような嗚咽をもらした。




希望に満ちた 明るい旅立ちをしようとしているのではなかった。
自ら試練にむかう
重い覚悟を背負っていた。

背を向けてしまったダンテに腕を回し
頬を寄せると
バージルは

明日 卒業の日、

新たに幕を開ける舞台がどうか喜劇になるようにと
祈ったのだった。




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