卒業
§1
フィアンセ  (♪あおいとりのうた カンナビス) 

「ダンテ」
卒業式を2週間後に控えていたある日、ダンテは学校の中庭で呼び止められた。

「サリア・・なに?」
「ちょっと 相談にのって欲しいの」

サリアはあのダニエルのステディでさっぱりしたショートヘアーのキュートな子だった。
彼は人間として生きていくことを決めてから それまでつっぱっていた態度が消え
むしろ 人を避け 静かに物思いに耽ることさえあった。
そんな彼のこころを引き立てるように気を配ったのが サリアだった。
ダニエルは彼女に心を開き
やがて恋をした。

「わたし、彼に結婚を申し込んだの。
大学を卒業してからってことなんだけど」
「へぇ、そう。で?」
「断られた・・」
「うそ・・」
「彼、打ち明けてくれた。自分は人間じゃないって」
「・・・」
「こどもが・・生まれるのがこわいって・・」
「半魔になるから?」
「わたしは 人間も魔族もそれから
半魔も共存する世界なんだから、
そんなこと関係ないとほんとにおもってたんだけど、
彼はすごく コンプレックスをもっていて
そんな自分の血が残るのがいやだ・・っていうの。

ダンテ、半魔ってどんな気持ち?
いやなこととか、あった?」

そんなことない、と言ってやりたかった。
しかしダンテは答える




「普通に暮らしているんだけど
忘れた頃に 好奇の目や蔑むような言葉を投げかけられたことはあるさ。」
「でもあなたたちが悪の暴走を止めてるのよね。
わかんないのかしら」

サリアが正義感いっぱいの目をして口をとがらす。

「サリアは子供がほしいから結婚したいんじゃないんだろ」
「そう、わたし、彼のそばについていてあげたい。
わたしも 彼にそばにいてほしい。
ずっと・・・家族として・・・
こどもはその成り行きでしょ?
もし彼がそれを避けるなら、わたし それにはこだわらない。
彼が 好きなの・・
ダンテは?恋人は?」
「いるよ」
「結婚、するの?」
「彼と?」

「彼?・・・そっか、それはそれで たいへんね。
愛してるの?」
「こころからね。
おれは・・・だけど ダニエルの気持ちがわかる・・
半魔であること
二つの血が流れることは
強く、すばらしい絆の証だから誇りにしていいと、教えてもらった・・・でも
やっぱり暗い面をもつ魔が引き継がれることは
怖い・・・」
「だから”彼”にしたの?」
「たまたまだ。
俺はその人が好きだ。種族とか性別とかそんなところじゃなく
そのひとが、すきなんだ。
そのひとも おれを たいせつに たいせつにしてくれる・・・・」
「深いわね。 羨ましいわ。
でも人間ってほんと区別したり 差別したりするわよね!
わたし・・法科へいくの。
理不尽なしくみをぶっとばしてやるわっ」
「魔族だっておかしな誇りだの権威主義だの
そんなもののかたまりさ。紙一重もちがわない。
人間と魔族は裏表の関係だからな。サリアみたいな人間ばかりだといいな。
おれはダニエルがうらやましいよ。
あいつを 助けてやって。
辛い目にあってる。
あいつには 君の気持ちを伝えるよ。」
「ありがとう、ダンテ。
あなた、やさしいわよね。
ぜったい 幸せになるのよ!」

***

卒業式の会場はまだ静まらない。

「ダンテ、バージル」
「Hi、ダニエル」
「サリア・・」

「ダンテ、俺、サリアと」
「結婚するの!オッケー 奪っちゃったわ!」

バージルが目をむいて驚いている。
「えぇぇぇ!いつ?」
「それぞれ大学を卒業したら。」
「そうか! おめでとう!」

祝福をうけた恋人達はたがいに慈しむような目でみつめあうとやさしくキスをかわした。





「ダンテ、バージル、いろいろありがとう」
「卒業しても連絡よこせよ」
「ああ、この街がふるさとなんだから
いつでも帰ってくるさ」

ダニエルはふるさとという言葉に
気持ちを込めていった。

「ダンテ、欧州に旅にでるって?」
ダニエルが尋ねた。
「しばらくのあいだだけどね」
「気をつけてな、あっちは古い魔族が大勢巣くっているから。」
「わかった。ありがとう」
「とって喰われたりするなよ、帰って来いよ!」
「わぁってるって! そんなヘマはしねぇよ。」
「なにが 目的なのか・・・聞かないけど
得るものがあることを おれも 祈ってる」
「そうだな。 きっと 掴んでみせるさ。
オレ自身の 未来をな」
「それぞれの 新しい幕開けだ」
「おまえこそ・・自信もってやれ。
サリアを大切にな」
「ああ」

***

「ケッコンかぁ・・・
びっくりしたなぁ。
オレ あいつはてっきり おまえのことが好きなのかと思ってたよ」
バージルがふたりを見送りながら言った。

しかしそのあとの言葉がつづかない・・・
ただ ぽつりと

「今のあったかい関係が
ずっと 続けばいいんだ」
「オレも。。」
そういって 兄弟は 
顔を見合わせ 笑った。





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