卒業
§2
Salud ! (乾杯)〜バージルの進学 

「入りたまえ」

テュルキスタからもどって数日後
バージルは学校の進学カウンセラーのもとを訪ね、
進学の意思を伝えた。

ひととおりの話をきいて
カウンセラーの男は言った。

「君の求める人文学分野で 優秀な論文を提出してきた教授陣が集まる大学がある。
知識や見聞を深めるには
そこが いいだろうが・・・」

そこでカウンセラーは言葉を濁した

「オレの学力じゃ だめなんでしょうか」
「いや、それは問題ないだろう。
高度な内容になるが、
君の成績ならついていけそうだ。

君は・・・弟さんと二人暮らしだが
生活はどうしてるのかね?」
「はい。オレたち 一応 仕事があるので」
「ああ、あれか。
悪魔・・・退治か・・・
しかし いま薦めた大学は私学で
相当な寄付を要求されるのだが・・・」
「スポンサーになってくれる人がいて
心配はないといってもらっています」

「パトロンかね??
・・そうか、まぁ、君の器量なら 
そういうこともあるだろう・・・」
カウンセラーは口の端に淫猥な笑いを滲ませて言った。

反駁して うまくいくものもいかなくなるのが厭で
バージルはだまって 俯いていた。
嫌悪と怒りを隠すことができず、目に表れてしまいそうだった。

しかし その態度はカウンセラーを乗じさせた。
「君たちは 半魔だそうだが、
アレもやっぱり 激しいのか?
吠えるのか?
尻尾なんか 生えてるのか・・・ひひゃひゃ・・・・」

その嗤いのほうが よほど 悪魔的だと
バージルは思っていた。
こういうやつらが 魔に飲み込まれ、
とりこまれていくんだ・・・

そういうやつを
オレ達が「退治」していくんだよ・・・

そう 思うと バージルの口許には
自然と男に対する嘲りが浮かんでいた。
それを カウンセラーは「自嘲」ととった。

「相手も 魔族か?
そうだな、
世界の富豪には魔族も多いって噂だ。
まったく・・・人間の富を悪魔ふぜいが握るなど
もってのほかなのだがな。

どうだ キサマ。
パトロンには毎日可愛がられてるのか。

週に2日ほど俺に尽くせ。
悪いようにはしない」

「先生・・・・進学の件」
「遅いんだよ、言うのが!
卒業まであとどれだけの日にちが残っていると思う?
馬鹿め!」

誘いをサラっと流され
カウンセラーは急にあたまに 血を上らせたが
引くこともせず、こんどは口調をかえて囁いてきた

「どうだ、わたしがなんとでもクチをきいてやろうじゃないか・・
本気だよ、
これでもけっこう 顔は利くんだ」

そういいながら バージルの背後にまわり肩に手をかけた。

ちょっと手を跳ね除ければ
ふっとんでいきそうな貧弱な中年だ。

(肩に手をのせるくらい・・・・)





そう思ってはいたが
胸に掌がはいりこむと
さすがにがまんしきれず
立ち上がろうとした
そのとき

「ラムフォード先生! なになさってるんですか!」

ヘルガという 女性教師が入ってきた

「なんだねっ!君!ノックぐらいしたまえ」
ラムフォードが気色ばると
ヘルガは すました顔で後手にドアを叩いて見せた。
「ノック・・すこし遅れましたわ・・・。
先生、一度目はうまくいったようですが、
二度目はさすがに通用しませんわよ。

バージル、私が話を聞くわ。
いらっしゃい」
ヘルガも進学のカウンセラーのひとりだった。

「先生、助かりました」
「あなたも ちゃんと拒否しなさいよ。
ほんとにもぉ、ああいう パワハラ、セクハラ、許せないのよね、わたし!」

経験を積んだ 母親ほどの歳の女性だが
学生のころはバンドを組んで「ガンガン」いっていたそうで、
その口調は歳の近い友人と話しているようだ。

「ラムフォードには 前科があるのよ。
家系に教育者がおおいから ねんごろにおさめてもらったんだけど、
あなたが部屋にはいっていくのをみたときに
ちょっと気になったのよね」

「え?なんでですか」
「あんた、かわいいから。」
「先生、それも セクハラですか」
「あはは〜 そうかもね」
「でも 助かりました」
「じゃ わるいけど、話、最初からきかせてくれるかな」

バージルは進学の目的と意思、
そしてスポンサーの存在を話した

「種族の存在の意味・・・ね・・・
意味の無いことなんて、ないって 私はおもってるけど
興味深い話よね。
そ、 じゃ 願書をとって早急に話を進めましょう。
学校の推薦もたぶんとれるわ。あなたならね」
「ラムフォード先生は時期が遅いって」
「大丈夫よぉ!まかせなさい。
スポンサーさんのサインがいるからそれはよろしくね。」

実際はヘルガはかなり奔走してバージルの入学手続きの根回しをした。
しかし そのことをバージルが知ることはなかった・・・・

***





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