卒業
§6
メンテナンス リハーサル 1
〜ジルとフィルと純情ペテン師〜
 
(♪煉獄庭園) 




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「・・・・ジル・・・ねじ、 余った」
「あ、 なに またかよっ」
「でも なんか 問題なさそうだぜ。
もともと いらないモンじゃねぇの?」
「もぉ・・・・
そのネジで アンタの 頭のどっかを締めときなよ、ダンテ」
「なんだよ、まるで オレが抜け作みたいに言うんだな!」
「あぁらら、まちがってた?

その様子は キャシャな黒猫にどやされる大きな虎といったふうで滑稽なものだったが
それを横目に 別の声がかかった。

「締めといたよ」
「あ、わっるいわねぇ、抜け作に代わって礼をいうわよ。
どれ・・・あ、ここ、ここね。この下のとこ。

ダンテ、見てみな。
他が締まっているから じっとしてたり 滑らかな道を走る分には問題ないけど
ダートとかで衝撃をうけるとがたついてオイルのチューブを傷める可能性があるんだよ。」

さかんに 説明するのはジル。
黙って 工具をふるっているのはフィルという。

***





ダンテは単車のメンテナンスを教えてもらっている。
親が修理工場を営んでいるクラスメイトのジル。
勉強は からきしダメ、色気もまったく なしだが
こと エンジン関係になるとちょっとした音のちがいで調子を聞き分け、
自分でエンジンを磨き上げていく。

もうひとりのフィル。
北方系の移民の系列で 青味を感じるほどの白い肌。
白に近いブロンドの髪はなぜか 完全に不揃いにがしがしと刈られている。
そして氷河に閉じ込められたようなわずかな青をたたえた瞳。

全ての感情を顔の筋肉、指の先々にまで豊かに表現する ジルと
どこか つかみどころのないフィル。

フィルはそのためからなのか
周囲からいわれのない仕打ちをうけることがあったが
いちど それをジルがかばったことから ふたりは言葉を交わすようになった。

さらにメカフリークのジルが改造エンジンの燃焼システムに頭をひねっているときに
フィルがいともカンタンに計算し、解決方法をだしたことで
ふたりはすきまなく合わさる二枚のピースのような関係になったのだ。

二輪でも四輪でもいい。
いつか オリジナルのエンジンをひっさげて
自分達のチームが大きなレースイベントのピットにはいることを
夢見ている。

***



「アンタ、乗り回すだけなら人並み以上だけど
長旅になるんだろ?
メンテの最低限はできないとね」
「先生たのんます」
「じゃ、 基本中の基本、パンク修理の第5回目。
タイヤ外して・・・

まって! もう 壊さないでよ。
・・・って
あああああ!」
「あれ?」
「あれ・・・じゃなぁぁぃ!!
これでホイール何本つぶしたぁ!」





タイヤ交換だけですでに5回もやっているのは ダンテが力加減がつかめず
タイヤやチューブを破る、ホイールをゆがめる、という具合だったからだ。

「アンタのバカヂカラは よぉくわかった。
乗って走らなくても バイク、持って走れ。」
「それじゃ、つまんねえもん」

「・・・とにかく、 マシンを扱う時は
こう、やさしぃく 女を抱くように・・・
ほら やってみな」
「女をだくよぉに・・・・・」


バキッ

「てめぇ! 女を抱いたことないのか!」
「お前で練習しようか!」
「断っっ然、 お断りだ」

****

不意の事故
スペアタイヤがない場合のパンク
転倒による レバーの折れや 歪み
タンク類の破損
電気系統の不具合・・・といったものへの
応急対処法をいろいろと教えてもらった。

そんな授業の合間に
ときおりジルとフィルが新しいシステムを思いつき
真剣に話すことがあった。
ダンテには それがたまらず楽しく、見ていて飽きることがなかった。

メカの話もおもしろいが
なによりも
信頼しあい
共通の夢に向って まい進する姿が
まぶしかった。

***



ある日 
ジルが さも嬉しそうに言った。
「ダンテ、あたし達からの餞別だ」
「なに?」
「オマエのバイク
パワーアップ・・・・しておいた」
答えたのは フィルだった。
いつもながら とつとつとした感じだ。
「フィルが思いついたんだよ。
高速でのノビをぐんとよくしておいた。
そうすると低速の安定感がすくなくなるけど
ちゃんとコノコは計算してるからね。
それと横からの衝撃やブレに対する能力を上げた。
マシン自体が安定を保てるようにしたんだよ。
振り子、みたいな感じで、ライダーの負担を軽くするんだ」

「へ〜〜〜〜〜」
「・・・意味、わかった?」
「パワーアップしてくれたんだ。」
「・・・わかってねぇな、コイツゎ・・・
早い話 たとえば 両手を離しても 少々のことでは
がたがたしないってことだ。
あと 瞬発力もあがってるよ。
トップスピードまで0.5秒だ。
ふっとばされるなよっ」
「おおおお!ロケットマシンだな。
サンキューなっ!!」

まるで しっぽを振る犬のような表情をみせる ダンテ。
ジルとフィルは顔を見合わせて
笑った。

***

「ヘルメットの塗装もやりたいんだけど・・」
「ああ、いいよ。
なにか 希望ある?」
「うん、考えているのがあるんだ・・・」

ダンテは ふたりに手伝ってもらって
メタリックなブラックベースに
シルバーと鮮やかな朱の炎を挿して行く。
そして文字が浮かび上がった

「TRICKSTER(詐欺師)」

「俺のスタイルだ」
「ふふふ、だまされやすい純情なペテン師さんもいたものね」



***


(画:ナターシャ)


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