Stay with me. ('caz i luv u)

§3 棘 音楽を流します




Stay with Me 3

***

「だいたい 弐伊 『帰るぞ』とか
おかしいって、
今は一緒に暮らしてるわけじゃ・・・」
「いやなのか」
「い・・・・? や・・じゃない」

嫌なわけがない。
当然のツガイであるような扱いは 気恥ずかしくもうれしいものだ。
ちょっぴり 茶化したかったのだ。それだけだったのに・・

「じゃあ、つべこべいうな」
「え?・・・!」

いきなりだった。
思う以上の力でグイッと手を引かれ、ダンテは言葉を飲んだ。
弐伊はそのまま ビルの隙間に彼を引き込み壁に押しつけると
シャツの下から手を入れ その胸をさぐりながら
性急に唇を求めてきた。
それが 苛立ちのはけ口を求めているのは 明らかだった。
ダンテは抵抗し、弐伊を押しやった。
「やめ・・・ 弐・・ 弐伊酒臭い・・・」
「このまま ここで やっちまいたい・・」
「ダ・・ダメ  やだよ・・
どうしたの?
四兄ぃとなんかあったのか?」
「いや。 ほんとに また 会えたことが
嬉しかった・・・・涙が出そうなほどな・・
ごめん、帰ろうか。 
今晩は
いっしょに いてくれるか?」

***

横で眠る弐伊の髪を 
ダンテは 指でそっとまさぐっていた。

「どうしたの、弐伊・・・いつもと 違う・」

「(す・・まん・・・・ネロ・・)」

「!? ネロ?・・・ネロ君?」

訳のわからなさが ダンテをざわつかせる。

「・・弐伊、辛そうだ・・ 知りたい・・なにがあったのか
ほんとは、・・・ずっと想い続けていることって・・・弐伊・・」

ダンテは しずかに 弐伊の背に頬をよせた。

「ん・・・あ? どうしたの? ダンテ」
「あ、 起こしちゃった? ごめん」
「いいさ。 どうした、なんでそんな顔してる」
「・・・弐伊、寝言で ネロ君の名前、呼んでた・・・

弐伊! 俺、ネロ君の代わり?ほんとは・・ずっと」
「何言ってる。代わりとか・・
ああ、そうか、四に会って思い出しちまったんだな。ははっ。 

ヤツは  俺のかけがえのない友人だったんだ」
「友情とか
それだけだったら かまわないけど・・」
「じゃあ ほっといてくれ」

弐伊の声音には多少の苛立ちがあり、これ以上話したくないと断言していた。

「昔の話だ。おまえには関係ない。
ネロも もう、 いない・・。
いまは おまえだけだ、・・・な?」

表情をゆるめ、顔をよせてきた。

「・・・やめろよっ。
関係ないとか、そうやって話を避けるって
やっぱ おかしい。
四兄ぃのとこからずっと・・・
ずっと・・・弐伊の心の中には他の人がいると 感じてた。
弐伊は大人だし、俺なんかよりずっとたくさんのことを経験してきている。

だけど、
今でも引きずってるその想いって、なに!?
ごまかさないで
教えて・・・
俺は・・俺は その人の代わりになってる?」
「おい・・どうしたんだ、急に。代わりなんて・・・おまえは おまえだ」
「かけがえのない・・他に代えがたい人なんだ・・ネロ君」

「なに・・・行くの?」
「帰る。
兄貴と 買い物にいくって約束もしてるし。」
「明るくなってからにしろよ」
「魔物がでてきたって平気なんだから、べつに いいじゃん。
「あした 来る?」
「わかんねぇ、・・・じゃ」
「・・・」

遠い過去においたまま、「今」にはすでにないものについて
嫉妬したり詮索したりするのは こどもじみている。
弐伊はフンと鼻を鳴らして
自分を投げ出すように 仰向けになった。
まだ ベッドの左側はあたたかい。

「ないものねだり・・・」
そうつぶやくと そのぬくもりを残すシーツをぎゅっと 握り
口の端で自分を嗤った。

***
夜道をダンテはブラブラと緩慢に歩いている。

「ふん・・・俺、なに考えてんのかな
ただの 寝言じゃん
でも 
弐伊のこころの ずっと深いところに棲んでいるのは
俺じゃない・・」

たった一言が どうしてそんなに自分を捉えるのか
戸惑い、混乱する。
苛立ちは ただ膨れ上がり 抑えられなかった。

自分の中で何かが暴走する。
感情の起伏や性格的なもの、だけでは 説明が付かない
黒い渦のようなものだ。
それが自分の内にある。
時としてそれが目鼻をもち、ぞくっとするような表情さえ見せる。
しかしそれは けっして嫌なものでなく、むしろ近しいものに感じる。
わずらわしい理性や思索を捨て、感情に素直になれる。
その感情とは、喜びとか慈しみというものではなく
憎悪や怒りといった負なるもの、
普段の彼ならば制御し鎮めてきたものだった。
ためらうことなく 感情のままにふるまうことの 解放感!

もともと彼は肉体的な交歓を忌み嫌っていた。
兄の受けた仕打ちを知ってからその動物的な行為を嫌悪していた。
それも本来は愛のひとつの形であると 教えてくれたのは弐伊だ。
弐伊を信じ、また 自分も望んだ。
それが いまは やはり まやかしだったのだと思う。
愛への疑念はその存在の否定へ、
そして そんなものに頼る弱いこころの持ち主達を侮蔑する。

たった一言がおとした波紋は すでに彼の中では大波となり、渦を巻いていた。

***

薄い三日月が嗤う。
魔の血の者に愛などないと。
幼子が憧れた 形ばかりの飴細工。
脆くも崩れ いまは 醜悪な塊となれ






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