続・メッツァにかかる月

§12 オーディーンとニィB

放心しているニィの背に浮く汗を オーディーンはすーっと拭った。

「大丈夫?」
オーディーンの問いかけに しばらくあってから、ぶっきらぼうにニィが答える。
「・・溶けましたっ」
「よかった?」
「聞くな、このエロ爺ィ・・・」
「ははっ、いつものニィ君だ。さっきまで・・」
「それ以上言ったらコロス」
「それはごめんだ。 これからずっと 君と一緒にいたいから」
「・・ずっと?」
「もう・・消えないんだろ?」

ニィは顔の向きを変え オーディーンの目を見た。
かすかに懇願の色が見えたように思った。
ニィは微笑んでうなずいた。
オーディーンも心底嬉しそうに微笑んだ。

オーディーンはガバっと起き上がると困ったような顔をつくり 言った。
「にしても、ニィ君、君どろどろだ。 それ、ほっとくと パキパキになるよ」

ニィはカーッと全身が熱くなる思いだった。
それまでの熱のかわりに 羞恥がおそってくる。
「もぉっ、見るな」
「おいで。いいところがあるから」

オーディーンはニィの手を引いて立ち上がらせた。
「イテッ」
「え?」
「・・・け・・けついてぇ・・・神、やりすぎ・・」
「す・・・すまん」
オーディーンが照れと申し訳なさでしゅんとするのを 初めて見た。
はずかしがり屋どうしは 笑ってごまかすしかなかった。

***

オーディーンが案内したスペースはすこしあたたかく感じられた。
「泉?」
「うん」
オーディーンは 手のひらにブルーのネオンのように光る珠を顕した。
「カミワザね」
ニィの言葉に
「そ。きれいだろ?」
そして 珠を泉に投げ込んだ。
ゆらゆらと沈んでいく珠は スペース全体を蒼く浮かび上がらせる。
水面の揺れが天井に映っていた。
泉はかなりの深さがあるにもかかわらず どこまでも透明だった。

「きれいだ・・・・」
「おいで。ここの水は地熱のおかげで 温(ぬる)んでいる」

オーディーンはニィの手をとって 泉に飛び込んだ





ぶくぶくと沈みながら
ふたりは目を交わす。
クリスタルの泡が二人を包む。
そのかがやきより ニィは 水にただようオーディーンの髪が
美しいと思った。
これからはこの人と一緒にいよう。
この人も望んでくれる。そして だれより 自分が
それを望むのだ・・・

ふたたび とびだした 泉のおもてで
ふたりは もういちど 抱擁した






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