続・メッツァにかかる月

§8 フレッガ


***

ヴァルハラ宮殿の前庭。

「フレッガ、行ってくるよ。
・・・君、わしが大神でなくなったら どうする?」
「どうもいたしませんわよ。
わたくしの夫は大神ではなく オーディーンですから」
「そうか・・・ うれしいね。
やっぱ 君はいい女だ。
しかし 君は主神の男神とともにあらねばならん。
後を頼む」
フレッガにもそのことはわかっていた。
もしもオーディーンが去り ヴァルハラにべつの大神が住まうことになれば
その妻と呼ばれることになる。

迎えの馬車から小人のドヴェルグが降りてきた。
小人は一通の手紙をオーディーンに渡した。
竜神からのものだった。
手紙はオーディーンを励ますものであり、自分はいつでもオーディーンの味方だとあった。
オーディーンがそれを読んでいる間に ドヴェルグはフレッガに近づき 包んだ菓子を渡した。
オーディーンは フレッガが微笑んでそれを口にするのを見た。

その途端 フレッガは 氷の柊に姿を変えた。

「フレッガ!」

オーディーンが柊に触れる間際、
ドヴェルグは奇声をあげ、槌で柊をこなごなに打ち叩いた。
オーディーンは形相を変え ドヴェルグを短剣で切り裂いた。
駆け付けたロキは 倒れているドヴェルグを抱き上げ 怒りの表情でオーディーンを責める。
「なんということをなさったんですか!
この小人は竜神の使い、サンクチュアリの使者。
それを倒したとなれば オーディーン、あなたは 神々を完全に敵に回す!」
「しかし・・」
「オーディーン・・残念だが あなたの言い分には誰も耳を傾けますまい。
わかりました。逃げてください。 ここはわたしがなんとかしましょう。
竜神にもうまくとりなします。
追手が放たれる可能性もある。
ここはほとぼりが冷めるまでヴァルハラを離れてください」
「いや・・わしは逃げも隠れもしないよ。裁かれるならそれを甘んじて受けるつもりだ」
「なにいってるんですか。
あなた以外にアースガルドからニブルヘルムに至るまでを守れる神がいますか。
今は冬の闇とおもえばよい。必ず 春はめぐってきます。
もしもあなたが アースガルドを愛しているなら、生きるべきです!
竜神もそう お考えだ」
「アースガルドを・・・わかった。すまぬ、ロキ。 あとはよろしく頼む」
「フレッガ殿のお庭から出られるとよいでしょう。森に続く」
うなずいて オーディーンは踵をかえした。

「オーディーン。あなたは神の中の神だ。
だれも自分の手であなたを死に追いやりたくないのだ。
あなたは 追っ手の刃にかかり 野に朽ちればよい」

ロキは笑って ドヴェルグの遺骸を打ち捨てた。








 前のページ  次のページ  続・メッツァにかかる月TOP  小説館トップ   総合トップ